DAUGHTRY / DAUGHTRY

90年代後半、テレビ東京で『ASAYAN』というオーディション番組が放映されていました。CHEMISTRYモーニング娘。鈴木あみを輩出したことで有名な番組です。この『ASAYAN』と同じようなオーディション番組がアメリカでも2002年から放映されるようになりました。番組名は『American Idol』。


FOXチャンネルと契約するかダイジェストDVD【 asin:B000IY0EV8 】を買う以外に視聴方法が無い番組なので日本では馴染みが薄いですが、第1回の優勝者Kelly Clarksonの名前を知っている人は多いんじゃないでしょうか。優勝者に約束される華々しいメジャー・デビュー盤『Thankful』は話題性もあって大ヒットしましたが、続く2nd『Breakaway』は"Breakaway"、"Since U Been Gone"、"Behind These Hazel Eyes"など出すシングル全てがチャートイン。全米だけで600万枚のセールスを記録しました。もう彼女には「アメリカン・アイドル出身の」という形容詞は不要でしょう。


そんな『American Idol』から少し毛色の変わった新人が出てきたので取り上げてみます。


DAUGHTRY

DAUGHTRY


Kelly Clarkson以来早くも第5回を数え、昨年放送された『American Idol』のセミ・ファイナル進出者、Chris Daughtry(クリス・ドートリー)。番組中でもFUELの"Hemorrhage"やCREEDの"What If"など、ロック色、しかもポスト・グランジ系のハード・ロック色の強い楽曲をカバーして話題を呼び、BON JOVIの"Wanted Dead Or Alive"をカバーしたシングルでデビューを飾っていた彼が、バンド編成のDAUGHTRY名義で昨年リリースした1stアルバムが息の長いセールスで先週、1月26日付けのBillboardアルバムチャートで遂に1位へ躍り出ました。


これまで『American Idol』出身のアーティストはテレビ効果で発売直後に大きな売上を記録し、その後急激に順位が落ちるのが常でしたので(この現象がアメリカにおけるシングル戦略に与えた影響は大きい)、この売れ方はちょっと規格外と云えるでしょう。どちらかといえば、Chris Daughtryも好きなSHINEDOWNやNICKELBACKなど、地道なツアーと王道バラードのシングルヒットでアルバムセールスを積み上げるコンサバ・ロックの売れ方に近い。


Chris Daughtryのボーカルはアメリカン・ロックの王道、コンサバしゃがれ声ですし、音も日頃ヘヴィ・ロックばかり聴いている僕でも普通に聴ける厚みがあります。"It's Not Over"とか普通に良い曲。『American Idol』という番組を知らない人が日本語の「アイドル」をイメージしてジャケットを見ると、スキンヘッドにヒゲ面でかなり予想を裏切られますが、それでも一応アイドルなので、STAINDのボーカルを5年間草津温泉に漬け込んだような肌ツヤとすっきりとした鼻筋は維持。


そしてアルバムはModern Rock Tracksのお抱えプロデューサーとも云うべきHoward Benson(ハワード・ベンソン。HOOBASTANK / PAPA ROACH / MY CHEMICAL ROMANCE / ALL AMERICAN REJECTS / P.O.D / ZEBRAHEADなど)を起用。"What I Want"では元GUNS N' ROSESのSlashがギターで参加。なによりも『American Idol』で培った圧倒的な知名度に、「実力がありながら優勝できなかった」という判官贔屓エピソード。全てに於いて見事なまでにハズしたところが無く、こりゃあ売れるわという感じです。従来のアメリカン・アイドル出身者に付き纏っていた「アイドル人気」「瞬間最大風速」というネガティヴ・イメージも地道なセールスで華麗に回避。これは『American Idol』から久しぶりに真の勝ち組が出るかも知れません。


しかしカラオケの上手いハゲをアイドルに仕立て上げ、「負けても地道に這い上がる」というストーリーまで完璧に演出してコンサバ・ロックのマーケットにまで偶像を送り込んでくるあたり、アメリカという国のショー・ビジネスの奥深さを見る思いです。こう書くとなんか貶してるみたいですけど、僕は別に良い曲が聴きたいだけで背後に余り深いストーリー性や魂を求めていないので、その歌い手が壮絶なトラウマを抱えた男であろうが、苦節10年のおっさんバンドであろうが、アイドルであろうが、特に気になりません。海の向こうにある背景は一律に透けているのが魅力的、という程度。


逆にNICKELBACKなんか毎回ヒットするシングルの曲構成が同じですし(アコギのサビ独唱から始まって延々リフレインの"How You Remind Me"方式)、SHINEDOWNとBLUE OCTOBERと3 DOORS DOWNのアルバムをシャッフルで聴かされればこの手の曲が好きな僕でも正確にアーティスト名をあてる自信が無いぐらいですので、「アーティストの個性」が然程重視されないコンサバ・ロックというマーケットに歌唱力のあるアイドルを送り込むこのマーケティングには賞賛の気持ちで一杯です。音が持つ「骨太」イメージに騙されてたけど、ここはアーティスト力が薄くてニッチ市場だなあ。さすが。


U2の"Sunday Bloody Sunday"をカバーするDAUGHTRY


ただ、こういう映像を見てしまうと、「バンド」として魅力を増やすには、もう少し弾けて華のあるギタリストが欲しいような。僕のコンサバ・ロック専用iPod nanoに潜り込むには、もう一工夫欲しいところです。なんだその偉そうな感想。2ndがちょっと楽しみ。出ますかね。