R-1ぐらんぷり2008 決勝の結果を受けて感想を少し

R-1ぐらんぷり2008」は昨年に引き続きなだぎ武の二連覇という形で幕を閉じた。せっかくリアルタイムで見ていたので、一人一人の芸人さんに対して、少しネタを見た感想など書いてみたい。テレビでお笑いを見るのが好き、という程度の浅いお笑いファンが個人的な感想を綴るだけですが、もし以下に挙げた芸人さんのファンなど、ご覧になって不快な思いをされる方がいたら申し訳ない。文末にも書きますが、非常に面白くテレビ視聴し、満足した結果のエントリであるということをご理解いただければ幸いです。

COWCOW山田よし
「どうも、伊勢丹の紙袋でーす」の相方。COWCOWは好きだし、田中邦衛には似てないことを前提で「どうせオチはこれでしょう」「やっぱり夕張メロン来た」みたいな暖かい目線で楽しむネタなんだと思うけど、そういう雰囲気を作り出す場としてR-1という賞レース空間は圧倒的にアウェイ。
ピン芸人の宿命と云ってしまえばそれまでながら、フリップを使う芸は笑いが小出しに小出しで切れてしまうので、それも相俟って最下位というか、下位は必然の結果かなあと。でもM-1で浅い出番の人たちと客が緊張し過ぎてイベント前半がスベリまくる悲劇を沢山見ているので、冒頭でふんわりとした雰囲気を作り出して、トップバッターとしては満点。

世界のナベアツ
以前このブログでも紹介したが、すっかりメジャーとなった世界のナベアツことジャリズムのあつむさん。最近急激に露出が増えた分、三谷幸喜が絶賛したとか、笑う為に余計な形容詞も増えて。「3の倍数」をやる、と99%予想された上での優勝の本命、という全てが不利な環境。で、何をやるのかと思ったら、「3の倍数」を発展させてきた。もう自分のネタは万人が知っている、という前提と自信を持ってこれをぶつけてきたのも凄いし、この日登場した8人の中で、当日の4分間以外の自分を使って笑いを取ろうと挑んできたのはナベアツ一人だ。
個人的にはその構成を高く評価したいけど、結果的にその挑戦が笑いの総量で1位かと問われれば微妙ところだったようで、残念な成績となってしまった。3位という成績が発表された際、せっかくの3の倍数、絶対にアホになると思ったのだが、普通に無茶苦茶悔しそうな顔をしていたのが非常に印象的だった。「三越」「三越の三階」というシャープ過ぎるカブセしかりで、あつむさんは芸人というより、放送作家に浸かり過ぎたのかも知れない。でも個人的にはずっと応援したい芸人さんだ。ナベアツOMORO!T-BOLANのやつ大好きです。

中山功太
笑いが細切れになるフリップ芸の構造はCOWCOW山田よしと同じ。芸風というか、ピン芸人全体の宿命なので仕方ないが、本人達はこういった「フリップで取る笑いの積み重ね」で賞レースの優勝が果たせる、と本当に思ってネタを作っているのか、ちょっと聞いてみたい興味深いポイントだ。
また、後述するが、じゃあ代わりにどんなネタを作れば優勝できるのか、というセオリーが余り見えないのもR-1の未成熟な大会にしている最大の原因。ただ、この未成熟なバラつきにはR-1を面白くしている側面と散漫にしている側面があり、今年は少し前者へのシフトチェンジが見られたのが今後の期待ポイントになりそうだ。しかし、COWCOW中山功太も、なぜ今回の大会でフリップ後のフォローコメントはことごとくスベッてしまったのだろうか。フリップのフレーズ自体は面白かったはずなのに。

なだぎ武
多分僕が個人的にこういった音を使ったピン芸を余り好まないので、この後に書くことはバイアスが掛かっている、という前提で読んでいただきたいが、自分の採点では1位とは程遠いところに在った。そりゃあファミコンの2コンも「ややこしや」も面白かろうが、なだぎさんだから笑ってるだけじゃねえの、と思ってしまった。もちろん、それがダメなのかと云われたら全くダメなわけ無いので、これは批判でも何でも無いわけだが。
ひょっとしたら、お客さんはディラン以外のなだぎさんを見たことが無い人たちなのかな、と少し思ったりした。これが優勝だとしたら、昨年ディランで優勝しておいたのは貯金として2倍ラッキーだなあ。一応きちんと評価すると、「ファミコンあるある」「小道具ボケ」といった月並みな要素を積み重ねて優勝が妥当だと思わせる笑いを取るのはやはり凄い技量だと思う。年齢制限が無い分、きっとR-1優勝のセオリーは今回のなだぎさん的展開にあるのだろう。

鳥居みゆき
R-1を見る前の段階で一番好きなピン芸人さんで、ネタも殆ど見たことがあるので正直R-1目線での感想が難しい。テレビOAが難しいカルト芸人ってのは便利な表向き紹介コメントであって、本人はきっちり計算できる人なのだ、という事もR-1前からわかっていたことではあるし。その証拠にガチガチに緊張していたように見受けられた。寧ろ鳥居みゆきの本質は、本当にテレビには出る事ができない真のカルト芸人的な人たちを鼻で笑うところにあるのではないか、とすら最近では思う。
人形劇の最後、合体部分だけが計算外で本当にモタモタした部分だと思うが、見切りの付け方も上手いし、R-1自体を更なる売り出しのキッカケとして利用したという意味では、今年のR-1勝者は多分鳥居みゆき。贅沢を言うなら、キャラをねじこむコンテストなのだし、登場部分でもっと溜めても良かったような。あと、関西出身の東京在住としては、多分関西の人は「てんや」を知らないと思う。今は進出してるんだろうか。

あべこうじ
滑舌が良過ぎる、というのも変な話だが、本人がどこで息継ぎをしているのか我々には全くわからないように、それを見守っている僕にも息継ぎの余裕がなく、なんか笑うよりも必死に見届ける感じのネタだった。あと、本人の責任では無い部分として、「ちょいウザ芸人」っていう前フリが不利。この漫談を聞く限りでは、ウザいのは彼女の鼻毛を心配するあべこうじではなく、鼻毛に頓着しない女のほうだから。
じゃあ本当にあべこうじがウザければ優勝できたのか、と云われると全く別次元の話なので、指摘としては余り意味が無いようにも思うが、一応。多分本人の中では「不思議の国のアリスのトランプ」が笑いの山場だと想定していたのだろうか。だとすると、優勝は遠そうだ。芸としては完成しているだけに、余計にそう思う。

芋洗坂係長
俳優・田口浩正さんの元・相方。うーん、これはどうなんだろう。個人的に好感を覚えなかった部分は二つ。まず、正確に測ったわけではないので確信は持てないが、なんとなく彼だけネタ時間が非常に長かったように思われた。制限時間オーバーでは?もう一つは、(人によっては高評価ポイントなのだろうが)係長の余興、という設定でハードルを巧妙に下げているところ。BoAまでは許容できたが、その設定で送別会だ人事課だ歌舞伎町に行ってぼられたと次々に追加設定を出されると、ひとつのネタの中でそんなに沢山設定をこっちに押しつけないでよ、と思ってしまう。
外見・芸名・動きとそれこそ「確実」なものを持っているだけに、そんなに追加設定を持ち込まなくても、もっと確実に笑いを生む手段はあったのではないか、と欲を出しながら見てしまった。個人的には2位にランクされる芸では無かったし、初見のインパクトが無ければ実際の順位もそうだったのではないか。ただ、もちろん面白かった。

土肥ポン太
このタイプの芸でトリは厳しい。ただ、決勝に残った以上トリの可能性はあるわけだから、この不幸は決勝に彼を選んだ運営側と彼自身が分け合うべき過失なのだろう。小道具・音楽の使い方に関しては直前になだぎ武の巧みさを目の当たりにしているだけに、更に評価が厳しくなった面もありそうだ。自分で用意した小道具を使って自分がボケる、というスタイルは確かに構築しやすい。ただ、事前に用意された小道具なんだから、もっと面白いだろう、という余分な観客の期待をあらかじめ背負うことになって、賞レースでは決定的に不利だ。
前フリのキャッチフレーズも一人だけ妙に無色透明な「浪花からピン芸開花の音がする」だったし、今回R-1を最もキャリアアップや自身のキャラ付けに生かせなかった芸人さんと言えるかもしれない。COWCOWの「トップバッターがんばった」とは対極の、「トリなのにこれか」という非常に気の毒な印象もあって、この日見た全ての芸人さんの中で、唯一僕はネタ中に一度も笑わなかった。この終わり方は少し残念。

最後にまとめ的なメモを残しておくと、ピンとコンビという構造差が余りに大きいのでR-1とM-1を必要以上に対比させるのはどうかと思う。思うが、R-1とM-1という名前にしてもスタートの経緯からしても比較されるのは仕方ない。比較されることがR-1をグダグダな印象にしている最も大きな要因だとしたら、R-1は宿命的にグダグダなイベントであり、それを事前に把握した上で楽しまなければならない。


個人的にグダグダだと思う部分はTVで見ている人も含めた観客のズレ。恐らく観客はM-1ピン芸人版、としてR-1を捉えていて、M-1で高得点を叩き出す漫才のような、終盤に畳み掛けるような展開を持つ笑いを求めているのに、ピン芸人ではシステム的にそういった笑いの提供が難しい。


もう一つはM-1をガチンコ勝負として見せるのに大きな役割を果たしている審査員の理知的かつ手厳しいコメント。観客はその理論立ったコメントを見て審査結果に納得を覚えたり、逆に「その理論はおかしい」とブログで意見表明することでお笑い通を気取ることが出来るのもM-1の大きな魅力だ。だが、R-1はピン芸人の大会である為、必然的に審査員は大物ピン芸人となる。間寛平高田純次が好例だが、ピン芸人(この際「芸人」の定義はさておき)で長く飯を食っている人はボケ寄りの人材が多く、天然或いは計算なのか、審査員コメントでも余り理知的なコメントを述べない。審査委員長の月亭八方が率先してボケにかかってスベる程だ。そこに少なくとも「芸人と共にブログなど評論の俎上にあがるべき基準や理論」の欠如を感じて、なんとなくR-1に食い足りない印象が残るのではないかと思う。


更に、今回世界のナベアツの不利と芋洗坂係長の有利で明らかになったように、ピン芸人はコンビ漫才に比べて、事前にネタや自身の存在がテレビで露出されていたときのディスアドバンテージが大きい。コンビならちょっとした掛け合いの変化や相方の台詞をどう受けるかなどで、既視感のあるネタをその構造を変えずに目新しいものに見せることができるが(勿論それはそれで大変な作業であることは承知している)、ピンだとそれは相当に難しい作業なのだろう。誰もが「3の倍数でアホになる」と思っていたナベアツの工夫には目を見張ったが、それでオリジナルを超える笑いを生め、というのは余りに酷な要求だろう。


これらの構造不全というか、仕方ないが変えようがない要素が組合わさって、毎回視聴後に「この8人が今日本で今一番面白いピン芸人で、この8ネタが今日本で今一番面白いピンネタで、この審査員が最適だったのか」という、どうも消化しきれない思いが残る人が多いんじゃないかと思ったりした。余計なお世話ですが。


ただ、非常に楽しい1時間半で、出演して芸を競った8人の芸人さんには拍手を贈りたい。元々無料で視聴したコンテンツなので、少し批評じみたことを書いてしまったけれど、テレビ番組に関しては面白いの面白く無いのと云った発言は多少あれど、面白く無かったから無価値だ、といったニュアンスの発言は慎みたいと個人的に考えている。文句は金を払ったものに対して付けるべきだと思うからだ。但し、今回はそういった逃げ口上を用意するまでもなく、テレビで視聴しても充分に楽しい番組であり、イベントだった。来年にも期待。

R-1ぐらんぷり2007 [DVD]

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