追悼・市川昆 『細雪』と船場吉兆

細雪 [DVD]

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昨日は市川昆監督の追悼番組ということで、NHK-BSで『細雪』を放送していました。
細雪』といえば、言わずと知れた文豪・谷崎潤一郎の長編小説。豪華絢爛な物語世界でありながら、実は大して物語内で事件が起きるわけでもなく、物語内での時間軸も長い、という凡そ映画化が難しい原作だと思うのですが、衣装に代表される色彩の美しさが際立って、割と好きな映画です。時間もあったので、じっくり見直してその映像世界を堪能することにしました...と書きたかったのですが。

これ、今見ると市川昆監督には気の毒ですが、最高のギャグ映画です。
というのも、舞台が大阪・船場の名家で、主役がそこの四姉妹。既に斜陽の一家であるにも関わらず経済観念が希薄な彼女たち、という設定を際立たせる為、とにかく贅沢の象徴としてこんな科白が時折出てくる。
船場吉兆を予約しましたさかい」「吉兆でお弁当を」「今日は船場吉兆で」

当時は吉兆と云えばそれだけで観客に伝わるものがある、つまり映画の舞台である昭和10年代から映画が作られた昭和50年代まで一貫して評価された吉兆ブランド、というものがあったわけですが、今日の吉兆は違う意味でそれだけで観客に伝わるものがある、偽装スキャンダルに塗れた斜陽の老舗。

映画の中で四姉妹が吉兆吉兆と連呼する度に「賞味期限は大丈夫か」と心の中で余計なツッコミが入り、結局最後まで映画には集中できませんでした。市川昆版の細雪は違うエンディングですが、確か原作では三女・雪子(この映画では吉永小百合が演じる)が下痢をする場面で物語が終わるんですよね。「賞味期限切れの吉兆ばっか食ってるから下痢するんだって」と最後まで余計なものが頭から消えない映画鑑賞でした。俺の二時間半返せよ。