AUDIOSLAVE / AUDIOSLAVE

註)このレビュウは2002年12月に作成し、別サイトに掲載していたものです


AUDIOSLAVE

AUDIOSLAVE


個性と個性の鬩ぎ合い。素敵な言葉だ。


通常そうやってぶつかり合った個性は「合体」して傑作アルバムを生むわけだが、全く溶け合うことなく「自治」とでも呼ぶべき不思議な結果を生んだのがこのAUDIOSLAVEじゃないだろうか。
まさにロック界の国共合作。ケミストリーの欠片も無い。
1+1=の解答欄にまんま「1+1」と書かれていたような直球っぷり。


しかしこれは最高に笑えるアルバムだと思う。僕は凄く好きですね。


元々トム・モレロのギターは着メロギターだった。
RAGE AGAINST THE MACHINEの中じゃ確かに「ハードロック的」だったかも知れないが、90年代ロックが誇る最高のアジテーターでありフロントマンの1人であるザックが「ヴォーカリスト」としては単純に「ヘタ」であったように、彼もまた普遍的なロックギタリストとしては失格。
最高にカッコ良かったけど、あれはサビだけをエンドレスに使う禁じ手の麻薬であったわけだ。


そんなハードロックのエッセンス部分だけを着メロのように抽出した彼のギターが、ある意味では退屈な「正統派ハードロック・シンガー」、クリス・コーネルの歌声に出遭う。


この瞬間、漫才が生まれた。


着メロをバックに雄叫びを上げるカリスマ。不思議な背景とポップなメロディの中で「チャラー ヘッチャラー」と血管を浮き立たせて熱唱するアニメソングシンガーのような、カラオケに全力投球する尾崎紀世彦のような、最高のハードロックお笑い伝説。AUDIOSLAVEの誕生だ。


ハード・ロックというカテゴリーでわかり易い説明を試みるなら、多分このバンド、スティーヴ・ヴァイが加入したときのWHITESNAKEに近いと思う。ディヴィッド・カヴァーデイルが「俺達は今までも、これからもブルースに根付いたハードロックを演る」と力説する横で、高橋名人の早押しよろしくギターを弾きまくるヴァイのコメディアンぶり、トータルでの矛盾の美学には素晴らしいものがあった。


或いはDOKKEN。「俺もギターを弾いてメロディアスな曲をやりたいね」と語るドン・ドッケンに向かって「お前はマンドリンでも弾いとけや」と言い放ち、歌メロ無視のギターリフを刻みまくったジョージ・リンチ。


ルーツなんてクソ喰らえ。元来ハードロックとは、そういう矛盾したバカ同士がしのぎを削り合う音楽であったはずだ。プロジェクトやバンドの未来には大して興味がない、寧ろ乗り気じゃない。しかし、とにかく俺の歌を、俺のギターを聴きやがれ。


そんな自分大好きさん達の抱腹絶倒スタンドプレー珍プレーが「ケミストリー」という便利なモルタルで固められて「好プレー」という神になる。それがお笑いハードロック伝説。
AUDIOSLAVEは、その後継者なのだ。
古典芸能の世界に登場した衝撃の大型新人、AUDIOSLAVE
BURRN!は今すぐ彼らに表紙と巻頭インタビューのオファーを出すべき。


「レイジなんだから刺激的であるべきだ」
一見進歩的なこの発言は、その実ロックの概念をジャンル・ミュージックに押し込めた、型に嵌ったリスニングに過ぎない。


これは「退屈でありふれたハードロック」などでは無い。最高に刺激的な、笑えるハードロックを鳴らしたら、それがたまたまポップスの1ジャンルとしての「ロック」のフィールドでは退屈だったのだ、と。僕はそう思う。


彼らはもうレイジじゃない。これからはルイジと呼ぼう。サウンドプロダクションだけがレイジに「類似」した、ルイジアナとか田舎で売れる音。ここには先鋭的な音楽性も、ポリティカルなメッセージも、ロックの未来も無いけれど、昔ながらの笑える落語がある。今でも「ディープ・パープルで一番凄かったヴォーカリストは誰か」なんて、真顔で討論しているような。四国あたりのハードロック・ファンにこのアルバムを捧げたい。


21世紀、またひとつ、最高に笑えるハードロックお笑い集団が空から落ちてきた。
これだからロックはやめられない。