京都の湯豆腐

三が日ひたすら白味噌の雑煮を食べ、おせちを突いていれば相当胃がもたれてくる。七草粥という先人の知恵はあるものの、結局夜普通に飯食ってたら体重減らなくね?むしろ新年会で更にプラスじゃね?


そんな時には湯豆腐。
正月疲れした内臓に、あっさりした豆腐と鰹節を漬け込んだ醤油が沁みる。胃にやさしく京都の冬に思いを馳せることもできる精進料理。作り方も非常に簡単で、「料理ができる男」を気取るなら必ず抑えておきたい一品である。締めの言葉は「今度一緒に京都行こうか」。ぜひ定番の炭屋旅館あたりで、ベタにしっぽりと煮崩れたり着崩れたりしていただきたい。


だが湯豆腐は簡単な料理だけに大きな落とし穴がある。確かに南禅寺や嵯峨野あたりで食べる湯豆腐は美味い。しかしあれは「冬の京都」というロケーションの魔法が掛かっているからこそ美味いのであって、自宅で普通に昆布を浸した鍋で豆腐を茹でたところで、ただ貧乏臭いだけ。なにより鍋の見た目が寂しい。透き通った出汁の中で所在なさげに浮かぶ豆腐。野菜を入れても元が昆布だしだけなので、然程美味くない。モテる男の料理には、あと一工夫欲しいところだ。


そこで京都出身の僕がオススメしたいのが、「みぞれ湯豆腐」。


作り方はいたって簡単。まず大根おろしを「こんなにおろすのかよ」ってぐらい大量に作る。で、それを鍋一杯に、水の代わりに張って、その中に豆腐を入れるだけ。塩で味を調えてそのまま食べても、前述したように鰹節を漬け込んだ醤油や胡麻タレで食べても良い。この時醤油タレも暖めておくひと手間を惜しまずに。より暖かく食べられる。


これが非常に美味い。大根の甘味が豆腐に沁みて、なんともいえない優しい味に仕上がる。京都の料理といえば味付けが薄くて優しい、というのが一般的なイメージだから、一口食べて「な、優しい味だろ?」と誘導尋問ふうに言えば、隣で豆腐を突いている女も「ね、優しいね」と頷くこと間違いなし。刷り込み効果で、なんとなくこの料理を作ってくれた男までが優しく見えるというおまけ付きだ。更に大根を力強くおろす動作で上腕二頭筋をアピールできるというモテ効果も。これぞ簡単でワイルドでやさしい、男のモテ料理。どうよ?


どうも未だこの日記の方向性が定まらないわけですが、とりあえず「舌」は料理関係というより、簡単にできる男のためのモテ料理レシピという方向で行こうかと。この「みぞれ湯豆腐」は京都のうちの親戚筋では非常にポピュラーな料理でしたが、ネットで探してもこの種の湯豆腐を紹介しているところがほとんど無いので、結構オリジナル度が高くて宜しいかと思います。


大根おろしが勿体無い、もう少し凝りたいという人には、昆布だしと相性の良い鯛を入れた湯豆腐がオススメです。鯛(自分でおろせないのであれば切り身を買え)の皮に軽く炭火で焼き目を付けて、昆布だしで煮る。程よいところで豆腐を入れると、豆腐に鯛の風味がうつって、これまた素敵な鍋の出来上がり。豆腐を堪能した後は、鯛雑炊も楽しめるよ。


リンクは個人的に「豆腐って奥が深いなあ」と思わせてくれた本。所謂「レシピ集」とは少し趣が異なるので手軽に豆腐料理のバラエティを増やしたい人にはオススメしないが、日本人の生活に豆腐がどのように寄り添ってきたかがわかって、なかなか楽しめた。本はともかく、湯豆腐は豆腐が命なので、ケチって安い豆腐だけは買わないように。


豆腐百珍 (とんぼの本)

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